(2007年公開、2014年2月7日に一部内容を更新)
2014年現在でクレーマー被害の相談数は増加を続けているが、被害を受ける業種が細分化し、多岐にわたっている。
この類の問題では、「お客様からの正当なご指摘」なのか、「クレーマーからの不当な要求」なのかを早い時期に見極める必要がある。
クレーマーには、「不当な要求には応じない」という、断固とした姿勢で対応する必要があり、「時間がかかる」、「面倒だ」などの短絡的な理由から、金銭で解決を図るとクレーマーを助長することになり、クレームにクレームをつけるような、エンドレスの押し問答に巻き込まれ、金銭と時間を浪費することになる。
今回介入した案件は、マンションの浴室工事を担当した施工業者からの相談で、当該物件に居住するクレーマーから、作業ミスを理由に「浴槽などに傷がついた。取り替えろ。」などと執拗に要求されており、対応に困り、施工日も決めて交換の約束をしてしまったとの内容。
本件では、相談以前に、メーカーが短期間の間に何度も浴槽や浴室乾燥機を取り返させられていること、あたかも●●一家の構成員かのように標榜し、「誠意を見せろ。親父を出すぞ。」などと施工業者を恫喝していることなどから、間違いなく不当な要求であり、悪質なクレーマーであると判断した。「誠意を見せろ」=「金を出せ」である。
依頼主には、施工日の前日にコンサルトから直接の対応方法をアドバイスしたが、現場でどこまで対応できるのかは未知数である。そのため、必要に応じて対応方法をアドバイスするためにコンサルタントとして現場に同行した。
- クレームの根拠となる浴槽の傷
斜めに強力な光をあてても目を凝らさないと確認できない。ユニットバスでは一般的に、FRP製の浴槽に光沢を持たせるためにアクリル塗装で表面をコーティングする。左画像は、アクリル面がへこむなどし、光の屈折でFRP面に影が映る現象である。常識的に考えて、この程度の傷で浴槽を交換する必要はないし、元々、いつ、どこで傷がついたのか特定することもできず、使用者責任の範疇である可能性が高い。(影の直径は1ミリ未満)
- 執拗に微細な傷を探すクレーマー
当日は、依頼主と施工業者、下請と保険調査員に当社を加えた7名で現場に入った。
納品時の対応方法を決めるにも、クレーマー本人についてよく知っておく必要がある。勤務先が●●一家でなく、●●車体という一般企業であること、本件以外にも数々の問題を起こしており、何度も警察のお世話になっていること、自治会でも問題になるほど反社会的で自己中心的な人格(性格)の人間であることなどを調べ上げた。
交換工事は順調であったが、メーカー直送で未開封の浴槽をクレーマーに直接確認してもらう段階で、おかしな展開になり始め、とても傷とはいえないような箇所を見つけては、「気に入らなければ交換させる」などと喚いている。 施工責任者がメーカーの検品をパスした新品の浴槽であることを伝えたが、大声で恫喝するだけで一向に進展がない。
この段階で依頼主が自分と施工業者では解決できないと判断し、当社に介入を指示、当社は依頼主から与えられた工事関係者の身分でクレーマー本人に直接対応した。
施工業者としては、今以上の対応することはできず、浴槽の再交換の要求には応じられないため、今後は消費者相談窓口等、公的機関に相談することを勧め、すでに取り外していた浴槽を戻すことを申し伝えるまでは、穏便な展開であったが、そのうちに理由もなく激昂し始め、周辺住民の人目もはばからず、喚き散らすようにり、こちらの丁寧な口調に腹を立てたのか、ついに掴みかかるという暴挙に出た。
この類のトラブルでは、万が一に手を出されることがあっても反撃せず、被害を受け続けることが基本であり、好きなようにやらせていたが、前腕部を爪で傷つけられた時点で、目撃者が多数いることを確認し、蛮行をやめさせた。クレーマーは加害者であるにもかかわらず「警察を呼ぶ」などと喚きながら自宅に戻った。こちらも依頼主に110番通報を指示し警察を介入させた。
その後は所轄の警察署と協議し、暴行傷害事件として書類送致し、クレーマー事件としての観点からも罪を問う、という流れで対応することを決め、被害を届け出た。その間、加害者は警察官を相手に「自分が被害者だ。ねじられた腕が痛くて、肩から上に上がらない。殺されるかと思った。」などと、ありもしない被害を大きな声でまくしたてていた。多数の目撃者がいることも忘れているのだろう。今後は、依頼主が内容証明郵便から一切の対応をしない旨を通知する。これで本件は解決するであろう。
クレーマー事案は、テロまがいの企業恐喝である。
今回の事件でも、一人のクレーマーにより、多くの企業とその従業員の経済活動が停止しており、まさしくテロという表現がぴったりくる。
世間では、声高に消費者保護の必要性が論議されているが、これは消費者が正当な権利を主張しやすくするための環境を整備するためであり、イチャモンやゴネ得を許すためではない。自分に都合のよいように履き違えて解釈するのは勝手だが、人様に迷惑をかけてはいけない。
今回の事件では、幸いなことにクレーマーが暴力を振るうという展開に持ち込め、現に被害も出ていることから警察を介入させることができたが、本来のクレーマー事件とは民事事件であり、警察が関わることはない。企業に必要なのは、不当な要求には応じないという明確な姿勢を持ち、徹底して事実を確認、原因を究明し、真摯な態度から、相手に勝るスピードで対応できる体制を整備することである。どの段階でクレーマーと分類・判断するのかについては、自分たちだけで決めず、法律家や専門家を介入させ、外部の第三者の意見も参考に決定するとよい。
手土産等を含む金銭による短絡的な解決は、クレーマーによる犯罪行為を助長し、自らを継続してカモにしてしまう可能性が高いことを忘れてはいけない。